畑と機織りと犬と猫。移住先で見つけた新たな暮らし

【綿から糸を紡ぐ野﨑由貴さんと、見守る愛犬の源】
<ご紹介するのはこんな方>
南房総市在住
野﨑由貴さん(40代)
家族構成 夫婦2人
以前の居住地 東京都江戸川区
夫婦2人で移住し、現在は犬一匹、猫二匹と家族が増えた野﨑さん夫妻。家庭菜園から始まり、現在は近所に畑を借り、田んぼの手伝いもしています。棉を育てて糸を紡ぎ、機織り教室にも通って充実した生活を送る野﨑さんに、移住の経緯や今の暮らしについて話を伺いました。
「営業隊長」の犬がつなぐご縁
【ウッドデッキのテラスに干された麦と玉ねぎ】
野﨑さん宅へ到着すると、犬が吠えて来客を知らせました。人懐こい犬の名前は、源(げん)。心地いい光が入るリビングルームに入ると、白い壁と木製の家具に調和した、キャットタワーが目に入りました。猫の絹と綿が使うものです。
【明るいリビングルーム】
犬を飼う予定は全くありませんでしたが、知人と一緒に子犬を見に行ったのがきっかけで家に迎えることに。コロナ禍に越してきた2人は、周囲の人たちとあまり接点がありませんでしたが、「源が居て本当に良かった」とその理由を話します。
犬の散歩で近所を歩くことで近所の人たちと接点が生まれ、たくさんいる源の兄弟姉妹たちが繋いでくれた犬仲間もできたそうです。源のことを「営業隊長みたい」と、愛情を込めて見つめる野﨑さん。
友だちから、「多頭飼いがいいよ」と勧められますが、犬を2匹飼うことに躊躇していたところ、猫の里親募集が目に留まり、紹介してもらうことになりました。
【好奇心旺盛な絹と源】
夜になると駆け回る猫たちに当初は野﨑さんも源も苦労しましたが、現在では住み分けができて、5人家族でにぎやかに田舎暮らしを堪能しています。
移住を考えたきっかけは、コロナ禍
野﨑さん夫妻は、都内のマンションに暮らしていました。コロナ禍に入り、由貴さんの仕事は在宅ワークがメインに切り替わります。自由に外へ遊びに行けない日々や、高い家賃、出勤する際の電車通勤が嫌になり、「もうやめたい」と思った2人は、長野県の諏訪へ移住しようと考え、現地へ向かいます。
市の移住相談窓口はコロナ禍のため閉まっていたので、移住者が経営していた喫茶店に立ち寄りました。そこで聞いた現実は、「冬は氷点下19度になることも」という話。それを聞いた寒さが苦手なご主人は、「釣りをしたいから海がある方がいい」と言いました。
ネットで「移住相談」というキーワードで検索をしていた野﨑さんの目に止まったのが、南房総市の移住相談窓口でした。オンラインで相談すると、「遊びに来てください」と言ってもらえたので、南房総へ行ってみることに。空き家バンクに登録してある物件など、あちこち見学に連れて行ってくれたそうです。空き家バンクの家は納屋付きの大きな家が多く、コンパクトな家を希望していた野﨑さんは、インターネットで南房総の物件を探し始めました。
家庭菜園ができて、車が置けるコンパクトな家
南房総の賃貸物件をネットで検索して、キャンプ場に宿泊しながらアパートやマンションの物件も見に行きました。野﨑さんの希望は、「庭があって、車が置けて、コンパクトな家」でした。月6万円の賃貸物件が出てきたので早速見に行ってみると、庭には砂利が敷き詰められていて、土を入れてもいいけど、出ていくときは原状復帰が条件。たまたま隣の家が売りに出されていて、こちらはすぐに家庭菜園を始められるスペースがあり、「こっちがいいじゃん」と思った野﨑さんは、この家の購入を決めます。
【念願の家庭菜園と、迎え入れたころの源】
3カ月ほどかけてきれいにリフォームし、2021年3月に南房総市民になりました。
暮らしてわかる、理想の家
【毎日のお散歩風景】
山に囲まれて鳥の声が聞こえ、のどかなエリアに建つ野﨑さん宅。日当たりが良くて明るく、風通しがいいところがお気に入りのポイントです。毎朝源の散歩で田んぼを眺めながら、稲の成長を観察。「去年までは大変だなって見てたけど、手伝うようになって目線が変わった。散歩しながら、田んぼばっかり見ています」。
野﨑さんは和綿を育てていて、収穫した綿で糸を紡ぎ、今では機織り教室にも通って、自分で織った布で服を手作りしています。
「仲間や、はじめましての人と一緒に田んぼの作業をしたり、綿くりや糸紡ぎ、機織りの作業をお喋りしながらする時間が楽しい」と言いながら、実際に糸を紡ぐ様子を見せてくれました。
平織のしっかりした生地を手縫いで仕上げたもんぺなど、作るたびに毎回改善点がでてきて、これで完璧というのはないそうです。
【初めて織ったショールと、自作平織の生地で仕立てたもんぺ】
家も同じで、当初納屋は要らないと思っていましたが、田んぼや畑作業をするようになると道具の置き場所に困り、やはり納屋が欲しくなったのだとか。当初はコンパクトな家を希望していたものの、犬や猫の家族が増え、機織り機もある今、「もう少し大きくても」という気持ちの変化が。
「犬猫を飼うつもりはなかったのでふつうの壁紙にしちゃいましたが、猫を飼うなら板張りの壁にすれば良かった」と漏らします。
ご主人は畑を借りて、トウモロコシやナス、キュウリなどの野菜作りを堪能。職場の人から野菜作りのアドバイスをもらったり、一緒に釣りに行ったりする仲間もできて、南房総での暮らしを楽しんでいるそうです。
【ご主人が借りている畑】
移住を考えている人へ
移住する前に、道の駅「三芳村 鄙(ひな)の里」の景色が良くてここに住みたいと思って、このエリアで家を探しました。ピンときたところで、その土地の人と触れ合うのがいいと思う。農作業体験とかして、移住した先輩に話を聞いて。いいなと思った場所の人脈を広げるといいと思います。合いそうだなと思う人に出会ったら、すぐに連絡先を聞くのがおすすめです。SNSとか、気軽に連絡先が聞けますからね。
インタビューを終えて
田園風景が広がる、本当にすてきなエリアにある野﨑さん宅。棉を育て、それを紡いで糸にして、布を織る。言葉で表すのは簡単ですが、実際にそれを実行するには多くの手間と時間がかかるものです。それを楽しみながら実践している姿がとても印象的でした。出してくれた手作りの梅シロップジュースがとても美味しく、暮らしのあちらこちらに手作りがちりばめられていて、私もがんばろうという気持ちにさせられました。
(※本記事は、2025年6月に取材・撮影を行った際の情報をもとにしています)