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「こんなところで暮らしたかった」がかなうまで

【大谷さんご夫妻】

<ご紹介するのはこんな方>

大谷里奈さん(35歳) 
大谷徹さん(40歳) 

鴨川市在住
家族構成 夫婦2人住まい
以前の居住地 東京都江戸川区
移住スタイル 定住

鴨川市の里山エリア、宮山地区。なだらかな山林が広がり、お二人が住む敷地には多くの果樹が植えられ、畑では夏野菜が育っています。鶏も犬も猫も自由に歩き回り、それぞれ思い思いに過ごしています。ここで暮らす大谷里奈さん、徹さんご夫妻はどのようにして、この土地に出会ったのでしょうか。お話を聞いてきました。

【大谷さん宅に続く道】

【大谷さん宅に続く道】

【里山が庭】

【里山が庭】

東京のシェアハウスから南房総の山奥へ

里奈さんは名古屋で生まれ育ち、関西地方で進学、就職しましたが、激務が続くなか、次第に、自身の生活に疑問を感じるようになりました。そこで、ワーキングホリデー制度を利用して海外へ渡ることを決意します。スロバキアを拠点に1年半ほど海外で暮らした後、帰国し、東京、中野のシェアハウスで生活しながら、フリーライターとして仕事をするようになりました。
 
2020年、コロナ禍がはじまり、世間では不安が広がります。そんななか、里奈さんは、仕事で「都会から地方への移住」について取材することになりました。
 
「移住…いいなあ、と思いました。私の仕事はリモートでできるし、移住先を見つける旅に出よう、と決めました」と里奈さん。
 
当時は、のちに夫となる徹さんと、西葛西に部屋を借りて暮らしていたのですが、多忙で心身の調子を崩しかけていた徹さんとともに、軽自動車に乗って旅立ちました。2021年2月のことです。
 
リモートで仕事を続けながら、車中泊で移住先を探しました。旅にあたっては、いつでも東京へ戻れる範囲で移動することを心がけました。そのころ、千葉市内で暮らす、徹さんの親御さんが体調を悪くしていたためです。
 
まず、伊豆半島を周ってみたものの、住みたいと思える場所には出会えず、房総半島に向かうことに。とりあえずの行き先として「鴨川カトリック教会」を目指しました。のちに、里奈さんと徹さんはこの教会で結婚式を挙げることになります。
 
鴨川を旅していたある日、スーパーマーケットでレジに並んでいると、見覚えのある人を見つけました。「awanova」という、オーガニック・マーケットで出会った方です。再会を喜び、立ち話で、「今、住むところを探しているんです」というと、「空き家、あるわ! 行ってみない?」とのお誘い。もちろん、向かうことにします。その家は南房総市と鴨川市の境にある山奥にありました。普段は不在の大家さんがたまたまそこを訪れており、「住んでよ~」と言ってもらえたので、2週間後には、その家へ引っ越していました。
 
家は築300年くらいではないかと言われる古民家で、水道と電気は通っていたものの、ガスはありません。五右衛門風呂にボイラーをつなげて沸かしました。この家に移り住んでしばらく経ったころ、知人からの紹介で、縄文柴犬の血をひく子犬を家族として迎えました。江戸時代に活躍した房総の名工、宮彫師の「波の伊八」にちなんでハチと名付けました。

【凛々しく成長したハチ】

【凛々しく成長したハチ】

自分で描いたスケッチそのままの土地と出会う

里奈さんはライターの仕事を続け、徹さんも近隣から頼まれたさまざまな仕事をこなすようになりました。充実していましたが、かなり忙しい日々が続き、次第に、二人とも「もっと、好きなことをやりたい」という思いと、同時に「永住できる場所が欲しい」という思いが強くなっていきました。
 
そこで、賃貸の契約更新の時期までに引っ越し先を探すことにします。「空き家、あるわ!」から始まって、すんなり決まった前回とは異なり、次の住まい探しはなかなか上手くいきませんでした。里奈さんはこのように言います。
 
「鴨川にこだわって探そうと思ったわけではなく、場所だけでいえば、伊豆でもどこでもよかった。そうなると、数多くの選択肢のなかから、自分たちの暮らし方も含め、どこでどう生きていくのか、ということを選ばなくてはなりません」
 
里奈さんは「こういうところで暮らしたい」という土地と家をスケッチしてみました。広い土地に犬や鶏が自由に走り回り、畑があって、家は自由に改造できる…。そんなところで暮らしたい。
 
ところが、なかなか理想の場所には出会えません。契約更新の時期も迫り、「自分にはできない」とある種の絶望感にとらわれました。
 
「今、思えば、自分で思い通りになんとかしようと、エゴが先行していたからだと思います。いったん考えるのをやめてゼロから始めよう。引っ越ししないでこの家で日々の暮らしに集中しようと決めました。そこで、家の近くにあるお墓にお参りにいって『ここに戻ってきました』と報告したんです。お墓はその家のご先祖様のもので、この土地を守っている方々だから」
 
ところが、その日のうちに知り合いの猟師さんがやって来て、「空き家が出たぞ~」と声をかけてくれたのです。
 
さっそく見に行くと、そこは、里奈さんがスケッチした「理想の土地」そのままでした。
 
里奈さんは思わず「ありがとうございます」と口にしていました。「ここを、いい場所にしたい」と、心から思いました。
 
こうして二人は、2023年6月からこの土地で新しい暮らしを始めました。

【旅、そして暮らしを語るお二人】

【旅、そして暮らしを語るお二人】

【手ずから設置した薪ストーブ】

【手ずから設置した薪ストーブ】

鴨川の家ではじめた新しい暮らし

広がる里山の一部に母屋、鶏小屋、複数の納屋が建っています。果樹も数多く、もともと植えられていたものに加え、新たに植えたものもあります。畑では夏野菜を作っています。壊れていた鶏小屋は修繕しましたが、今いる4羽の鶏は放し飼いなので、寝るときに入るくらいだそうです。
 
この家で暮らすようになってから、猟師さんからしばしばイノシシやシカの肉をもらうようになりました。次第に、もらう部位が大きくなって、捌くのにも慣れてきました。捕獲された野生動物の多くは活用されずに処分されてしまうこと、また猟師さんたちからも「捨てるのはしのびないが、農地を守るためにはしかたがない」という話を聞きました。そこで、野生動物の肉をもっとよい形で活かせないかと考えて始めたのが、ジビエ肉でペット用のフードを作ること。
 
徹さんは「わな猟」の免許を取得し、独学で解体も覚えました。最初は知り合いの犬や猫のためにジビエフードを作っていましたが、2023年3月「もっと多くの人にジビエのペットフードの良さを知ってもらいたい」と、「ジビエペットフード ワンネス」を立ち上げました。ネットショップで販売している他、道の駅をはじめ、卸先にも恵まれ、着実に進めています。
 
移住してよかったことや、予想と違ったこと、自身の心身の変化などについて、聞いてみました。
 
「出勤しなくてよくなったことが大きいですね。ストレスが大幅に減って、心身の調子がよくなりました。しばらくゆっくり、ごろごろして暮らしたいと思っていましたが、草刈りをしたり田畑を手伝ったり、地元のいろいろな仕事で声をかけていただき、思ったよりも忙しくなったのが予想外でした。やることがたくさんありますね」と、徹さん。祭りにも参加し、今は氏子総代も務めています。
 
「いろいろな人に出会えておもしろいところです。電気やガス、水道に頼らない暮らしをしている人もいれば、二拠点生活を楽しんでいる人もいるし、DIYで家を建てる人もいます。人間関係が豊かで、距離も適度にあっていいですね。住んでいるところは完全に里山ですが、15分くらい歩けばヤックスや『里のMUJI みんなみの里』があって、意外に生活には不自由しません」と里奈さん。
 
移住を考えている人へのアドバイスをお願いしたところ「まず、来てみるといいですよ」とのこと。

【大谷さん宅】

【大谷さん宅】

【庭の大木】

【庭の大木】

【この土間がお気に入り。ワンネスの看板は手作り】

【この土間がお気に入り。ワンネスの看板は手作り】

インタビューを終えて

旅を経て、鴨川の里山で自分たちの暮らしを築きはじめたお二人。「空き家? あるよ」「空き家が出たぞ~」という地元の方の声がけも印象的でした。スケッチ通りの土地と出会えたというところもすてきです。「今後は、ジビエの解体をしている場所を工房にして、実際の作業を見てもらえるようにしたい」と、徹さんがお話してくれましたが、他にもさまざまな構想をお持ちのようでした。また、何年か後にお二人がどのような暮らしを築かれたのか、拝見したいと思いました。

【縁側で。ご夫妻とハチ】

【縁側で。ご夫妻とハチ】

(※本記事は、2026年6月に取材・撮影を行った際の情報をもとにしています)

ジビエペットフード ワンネス

https://oneness8.theshop.jp/

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