ふたつの「あの日」が暮らしを決めた

【ご自宅のリビングで(岩﨑さんご夫妻)】
<ご紹介するのはこんな方>
岩﨑華枝さん(57歳)覚(さとる)さん(62歳)
南房総市三芳地区在住
家族構成 夫婦2人住まい
以前の居住地 東京都東大和市
移住スタイル 定住
豊かな色彩の田園風景が広がる南房総市三芳地区。色とりどりの田畑が連なり、どこかパッチワークを思わせる景色が広がっています。
「ここで暮らしたい」。
その思いを胸に、何年もこの地に通い続けた岩﨑さんご夫妻。お二人が三芳に惹かれた理由、そして今の住まいと出会うまでの物語をうかがいました。
三芳と決めて、機会を待つ
岩﨑さんご夫妻は、東京都下の町で、パン屋を営んでいました。
ご夫婦の共通の趣味は「美味しいものを食べること」。忙しい仕事の合間を縫って小旅行へ出かけ、その土地の美味しいものを探して歩いていましたが、目的はそれだけではありませんでした。
「人が多く、慌ただしい町の生活から離れて、海に近い静かなところで暮らしたいという思いがありました。将来、自分たちが住む場所を探していました」と、華枝さん。
4~5年かけて訪れた場所は、伊豆、鎌倉、九十九里、銚子、南房総、沖縄…とさまざま。具体的に、移住の候補地として伊豆と銚子も考えましたが、家や土地の価格や交通の便の問題から、南房総が最有力候補となりました。南房総を訪れた2011年のある日「道の駅三芳村 鄙(ひな)の里」に立ち寄りました。ここで買った野菜の美味しさに感動し、「この近くで暮らしたい」と思うようになったのです。
三芳エリアで、最初は賃貸物件を探していましたが、愛猫2匹と暮らせる「ペット可」物件は少なく、「だったら、買っちゃおう」と決めます。とはいえ、このエリアは比較的物件が動きにくく、なかなか見つかりません。不動産屋さんも、相談をはじめた当初は、岩﨑さんご夫妻のことを「ひやかしだろう」と思っていたようです。でも、次第に本気度が伝わり、より具体的な物件の話が出るようになったそうです。

【リビングの窓から見える裏庭の風景】

【丹精を込めた花壇。ときどき猫が遊びにくる】
ふらっと立ち寄った日、運命の家と出会う
三芳で暮らしたいと思うようになってから約3年。
岩﨑さんご夫妻はいつものように南房総を訪れ、帰り際に馴染みの不動産屋さんに立ち寄りました。すると、庭と裏山、畑と田んぼがついた家がちょうど売りに出たばかりだと聞きます。まだ正式に情報が公開される前で、持ち主が住んでいる状態でしたが、すぐに見に行きました。
その家は、築年数は経っているものの、6LDKのゆとりのある間取りで天井も高く、開放感があります。裏山や畑、田んぼもあり、自然に囲まれた暮らしが思い描けました。
その場では「考えます」と伝えましたが、内心ではすでに「ここだ」と決めていたそうです。

【岩﨑さんご夫妻の住まい】

【2階からみた田園風景】
静かな環境で猫たちと暮らす
三芳の家に移り住むときは、とくにリフォームはせず、猫さんたちのために網戸だけはすべてステンレス製に換えました。東京から一緒に来た猫さん2匹は、それぞれ3年前と1年前に亡くなりました。今いる6匹の猫さんたちはここにきてから保護したり、譲り受けたりした子たちです。猫用トイレも、キャットタワーもいくつも置かれています。
華枝さんに、三芳での生活で気に入っていることを聞いてみました。
「静かなことです。東京からきた友達は『静かすぎて怖い』と言いますが、私は騒音や電子音が苦手なので、静かなところで暮らせるのはありがたいです。隣家との間には畑や庭があるので、建て込んだ町中とは違って気持ちよく生活できるようになりました」
と、笑顔で答えてくれました。
覚さんは、三芳に来てから農業の仕事に携わるようになりました。庭にはもともと、びわやすだち、柿、梅、桜などの木が植えられていましたが、オリーブの木も植えました。畑ではキャベツやブロッコリー、そらまめが育っています。コンポストも活用し、生ごみの処理も自然の循環の中で行えるようになりました。東京でも家庭菜園をしていたことはありましたが、家から離れた場所に畑を借りていたため、続けるのが難しかったと言います。

【自宅前の畑。季節の野菜が育つ】

【たわわに実る、すだち】
自然体で地域に溶け込む
花好きな華枝さんが、引っ越してきて間もなく庭に花を植えると、すぐに隣家のおばあちゃんと花の話題で盛り上がるようになりました。また、お二人が暮らす本織地区は祭りが盛んな地域でもあります。覚さんは地区の活動にも積極的に参加し、今ではもう「地元の人」として受け入れられているそうです。
華枝さんも三芳での生活に馴染む中、2018年にキャットシッターとして開業しました。今のところ安房圏域でただ1人の、プロのキャットシッターとして忙しい日々を送っています。
「移住を考えている人へのアドバイスは?」と尋ねると、覚さんは笑いながらこう答えてくれました。
「虫と車!」
華枝さんの答えはこうでした。
「三芳は東京へ出やすい場所です。私は歌舞伎が好きで、ときどき東京まで観に出かけています。家に帰ってくるとホッとしますが、あらためて東京で遊ぶ楽しさも感じています。東京は遊ぶところ。三芳は暮らすところ、ですね。館山まで近いので、日頃の買い物には出やすいし、病院も近くにあって生活しやすいですよ」

【玄関前で。三芳での暮らしを語るお二人】

【裏庭で育つオリーブの木】
インタビューを終えて
道の駅で野菜を買った日。そして、帰り際に不動産屋に立ち寄った日。
ふたつの「あの日」が、お二人の暮らしを三芳へと導いたのかもしれません。
「三芳に住もう」と決めてからも焦らず、何年も通い続けて出会った今の住まい。
華枝さんはキャットシッターとして、覚さんは農業の現場で、それぞれの力をこの土地で活かしています。
静かな田園風景の中で、自分たちらしい暮らしを築いていくお二人。
その姿は、焦らずに機会を待ち、地域に馴染みながら自分たちの役割を見つけていく——そんな移住のあり方を、静かに教えてくれているように感じました。
(※本記事は、2026年2月に取材・撮影を行った際の情報をもとにしています)
道の駅三芳村 鄙の里
https://www.hinanosato.jp/index.html
キャットシッターたまはな
https://www.cstamahana.com/






