海派と山派が出会った場所で、人生を楽しむ暮らし

【柏木さん夫妻】
<ご紹介するのはこんな方>
柏木高歩(たかみち)さん(60歳) 千明さん(58歳)
館山市在住
家族構成 夫婦2人
以前の居住地 千葉県成田市
移住スタイル 定住
コロナ禍をきっかけに「人生をもっと楽しもう」と決意した柏木さん夫妻。海派と山派、それぞれの希望を叶えたのは、館山市にある神余(かなまり)地区でした。農や手仕事を楽しみながら地域に根を下ろしている柏木さん夫妻に、移住の背景や現在の暮らしについて話をうかがいました。
コロナ禍で芽生えた「もっと楽しもう」という想い
2021年、コロナに感染して寝込んでいた柏木さんは、有名人がコロナで亡くなったというニュースを見ながら自分に置き換えたとき「人生もっと楽しいことをやろう」と思いました。高熱があるなか、海派の自分と山派の千明さんが楽しめる場所をスマホで探し、館山市にたどり着きました。
そのころ、実は千明さんもコロナに感染し、出先の山形で寝込んでいました。柏木さんから、「やりたいことをやろう!ピンとくる所があるから、帰ったらすぐに見に行こう」と、連絡が入ります。実際に、山形から千葉に帰ってきた翌日、館山市神余地区にある物件を見に行きました。
高台に建つ家からの眺めが素晴らしく、印象的な家でした。千明さんは「高台に住みたい」という夢があったので「毎日ここで朝を迎えられるのは、素敵だな」と思いました。
帰りの車で、「あそこに住まない理由があったら、教えて」と言う柏木さんの問いに「ないよ~」と答えた千明さん。そうして、この土地に移住することになりました。
倉庫を改修した住まいと手づくりの空間

【出迎えてくれた猫】
急な上り坂を登り切った先にある柏木さんのお宅に到着し、車から降りると、きれいな田園風景が広がっていました。この日は曇り空でしたが、晴れればまた違った景色が見られるのだろうと、期待が膨らみます。一匹の猫が挨拶に現れましたが、柏木家には5匹の猫が一緒に暮らしているそうです。
300㎡の土地にある2階建ての家は、元々倉庫だった場所を改修して造られたという家で、当初は敷地内に古民家があったそうですが、柏木さんたちが見に来たときには既に取り壊されてなくなっていました。
柏木さんは、家に隣接していた倉庫と家の間にあった壁や、倉庫内の床を取り除いて、家の中に新たな空間を造りました。土間に憧れていた千明さんは、安くできる方法を調べ、新たな空間にレンガタイルを敷き詰めることにしました。大きな薪ストーブが据えられ、今では居心地のいい土間に生まれ変わり、猫もまったりとお昼寝中。

【手造りした土間空間】
壁はまだ漆喰を塗っている途中で、友だちが遊びに来たときに居心地のいい空間になるよう、少しずつ整えています。
全部自分でやりたい派
引っ越した当初から住める状態ではありましたが、雨漏りがしていたので、柏木さんが天井を剥がして修理しました。「衣食住を全部やりたい」と宣言する柏木さん。家の改修や修理はもちろん、敷地内に小屋を建てようとしています。現在は生涯大学で陶芸や木工を習っていて、器やお皿も自作しています。
週に一度コーヒー豆を焙煎し、毎朝コーヒーを淹れるのが日課で、ラテアートは千明さんの担当だそうです。千明さんは子どものころから“糸”が好きで、和綿を育てて糸を紡ぐまでを学んだ経験があります。
成田で2羽飼っていたニワトリは、移住後7羽に増やしました。現在は車で5分ほど移動した場所にある農園に、小屋を整備して飼っていますが、獣害に遭って5羽に減ってしまいました。

【農園で飼っているニワトリ】
2,000㎡の山付き農地は4年くらい放置されていたため、篠竹がたくさん生えていたのを刈って開墾しました。柏木さんは大豆や蕎麦、陸稲(おかぼ)や小麦を育て、千明さんは和綿や野菜のほかに、レモンや栗、イチジクなどの果樹を植えています。
家の前にもキッチンガーデンがあり、私が訪れたときには摘みたてのハーブでお茶を淹れてくれました。
地区に根付く人々への尊敬
「昔はトンネルが塞がれていて、山を越えないと来られない場所だったらしい」と、柏木さんは話します。そのため神余地区には職人が多く、土地の成り立ちを知っている地域の人たちは、「誇りを持っていて尊敬できる人々」だと言います。
千明さんは「私たちは根なし草で、故郷の親ももういません。ここに根付いて生き生きと暮らしている人たちは皆さん素敵な方ばかり」と、地域を守る意識が強い神余の人々について話しました。

【千明さんのお母さんが使っていたというオイルランプに火を灯す】
柏木さん夫妻は館山市に移住しましたが、成田にある家も継続して持っています。それは、千明さんが家を開いて、子育て中の人や子ども、地域の人たちの居場所をつくっているからです。
柏木さん夫妻が成田で子育てをしていたときは、⼦供会や⾃治会がありましたが、だんだんとなくなっていきました。都市化が進むにつれ空地は減り、公園では禁⽌事項が増えていく現状。「住む人のニーズが変われば、地域の在り方も変化していきますよね…」と⾔う千明さんは、成⽥での現状に寂しさを感じて家を開くことにしたら、子どもたちがたくさん訪れてくれるようになったそうです。
柏木さん夫妻の子どもたちは既に独立し、夫婦2人で移住した神余地区ですが、子どもが居ても居なくても、区民全員がPTA会員であることに「感動した」と、千明さんは言います。子どもたちが小学校の行事へのお誘いの手紙をくれたりと、「気付きをいっぱいもらっている」とうれしそうに話しました。
移住を考えている人へのアドバイス
「考えすぎないで、直感を信じたらいい。もっといいところを探していても、決められなくなる。ここだと思ったら、きりがないからそこにしちゃう」と話す柏木さん。
南房総エリアはどこもそれぞれ魅力的なため「この美しい風景を残してくださった先人の思いを、引き継ぐ一員に私たちもなりたい…」と、千明さんは話しました。
葉っぱのお家
Instagram https://www.instagram.com/g_gkashy/
(※本記事は、2025年11月に取材・撮影を行った際の情報をもとにしています)






