山と海に囲まれたオアシス。人が集う憩いの家

【上田敦子さん 明夫さん】
<ご紹介するのはこんな方>
上田明夫(あきお)さん(70代)
敦子(あつこ)さん(70代)
館山市那古地区在住
家族構成 夫婦2人住まい
以前の居住地 千葉県鎌ケ谷市
移住スタイル 定住
2007年に館山市那古地区の中古住宅を購入した上田夫妻。しばらくの間は、週末に鎌ヶ谷市からこちらに通い、二拠点生活をしていました。まずは2010年に夫の明夫さんが、そして2015年に妻の敦子さんが現在の住まいに完全移住します。
家の周りは木々や草花、畑に囲まれる自然豊かな環境です。
この住宅に決めた理由や、実際の暮らしについてお話をうかがいました。
【自宅の外観】
土に触れる自然の暮らしを求め南房総へ
移住前は鎌ヶ谷市の低層マンションに住み、さらにその前は松戸市の団地で暮らす時期もあったという上田さん一家。
娘が生まれ「一軒家を建てて落ち着きたい」という思いもありましたが「その頃はバブルの時期で、土地や家の価格が高騰し、とても手が出せない状況だった」と話します。
敦子さんは松戸の小学校で長年教員として勤め、娘が大きくなるまでは、保育園や学校などに通いやすい地域で生活を続けてきました。
ただ、教員の仕事は多忙で「いつか、自然の中で土に触れながら、ゆっくりと暮らしたいな」という思いがつのっていったと言います。
「南房総に移住したい!」という気持ちがはじめからあったわけではありませんが、ときどきふらーっと電車に乗って、房総方面に遊びに来ていたそうです。
車窓から見える海や山を眺めながら「良いところだな」と感じていました。
その後、ネットで物件情報を調べていると、現在の自宅が売りに出されているのを発見。
家の外観とおおよその場所は載っていたので「よし行ってみよう!」と夫婦で直接見に行きました。
他にもいくつか土地を見てまわりましたが「この家がいいな」と直感で決めたそうです。
広々としたリビングや、自然あふれる風景も気に入りました。
暮らしに合わせて、家を手直し。孫や木々の成長を楽しむ日々
【玄関】
玄関を通り、リビングに向かうと、室内は窓からの光でとても明るく感じられます。
ダイニングキッチンも続いていて20畳ほどの広さです。
【リビング】
この物件は1990年に建てられたそうですが、今もきれいでしっかりとした造りに見えます。
購入後に手直しした箇所などはあったのでしょうか。
「この家は私たちが購入するまでは何年も使われていませんでした。そのため来た時はほこりだらけで、
まずはそうじから始めました。
思っていたよりも冬が寒くて、薪ストーブを取り付け、その後栗材を買って二人で床を貼りかえると少し暖かくなりました。
煙突を通す場所は設計図を確認して、一階の天井から2階のベランダに抜けるように設置。外壁も塗り直しましたよ」
家の中は窓が多く、風が通ると涼しく感じられます。ただそれでも夏の暑さは年々厳しさを増し、数年前にエアコンを付けました。
薪ストーブは設置してから13年使っています。自宅周りや裏山の木を倒し、薪を用意するのは明夫さんの担当です。
住まいの地域は、移住者や別荘として使う方も多いそうで、
「この家も元々は別荘として建てられたのではないか」と感じる造りとのこと。
食器棚やタンスなどの大型の家具は、この家を購入した時に一緒に残っていました。
軽くふき直して、今も充分に使えています。
そのため引っ越しの荷物は、業者を頼まずに自家用車で運ぶことができました。
【窓の外のウッドデッキ】
リビングの隣にある部屋は、娘家族やお客さんが泊まる時などに使われています。
部屋の窓をよく見ると、可愛らしいお絵かきのあとが。お孫さんが描いたものだそうです。
ふけば落ちるのですが、思い出としてそのままにしています。
部屋の壁には家族や友人の写真が沢山貼ってありました。
娘の友達もよく遊びに来たと言います。
ウッドデッキは後付けしたもの。外に出るとさらに風が心地よく感じられ、その向こうには木々や畑が広がります。
ウグイスが鳴き、ヒヨドリが飛び交い、夏にはカブトムシ、クワガタが群がるそうです。
ふとんを干すのにちょうどいい場所です。
外の木にはプラムや夏みかんの実がなっていました。他にも梅・桃・栗・びわ・くるみなどいろいろな木々があり、それぞれの季節になると、花の香りが広がるそうです。
新たに植えた木は、実がなるまで数年かかるため、毎年の成長が楽しみです。
家族や友人が気軽に泊まりに来る、居心地の良い空間
富浦インターから車で5分、自宅の周りは緑が多い地域ですが、車で10分ほど行けば、海も広がっています。
富浦の多田良海岸は遠浅の海で、長期休みで帰って来た孫たちがよく遊びに行くそうです。
「近くにある道の駅『三芳村・鄙の里』もしょっちゅう行きますよ。野菜も安くて新鮮ですよね」
スーパーや病院、駅や役所なども車で10〜15分の距離です。
「娘も若い頃はよく海に行き、サーフィンをしていました。
大学を卒業して都内に就職してからも、土日はこちらに来て海に入ることが多くあって、月曜の朝に道の駅から高速バスで職場へ向かうんです」
近くの通りには千葉駅行きのバスも出ているため、ここから県庁や千葉市内に勤めに行く人もよく見かけるとのこと。
明夫さんは硬式テニスをしていました。移住後もテニス仲間がよくやって来て、合宿をかねて泊まっていったそうです。2階にも客室があるため、多い時は10人ほど泊まりに来たこともあったとか。
庭でバーベキューをしたり、流しそうめんをしたりと、賑やかに過ごしました。
【2階の窓からは景色が遠くまで見渡せる】
屋根には温水ソーラーが設置してあり、天気の良い日はガスを使わずにお風呂に入ることができます。
窓の近くの椅子に座り、読書をするのもお気に入りのひとときです。
庭と畑で、花の彩りや野菜を味わう日々
今はアジサイやアガパンサスが見頃の季節です。
「春はもっといろいろな花が咲いて、色鮮やかでしたよ」
庭の花は、敦子さんが苗を植えたり、挿し木をしたりして増やしています。
畑では、主に明夫さんが野菜を育てていて、今年はじゃがいもや玉ねぎがおいしく出来ました。
これからは夏野菜の時期で、シソやミョウガも自然に出てくるそうです。
【ウッドデッキ下の薪置き場】
自宅のまわりは、ぐるっと一周できるようになっていて、そのスペースも有効活用。
ナスやトマトを育てたり、メダカを飼ったりなどして、明夫さんは毎日のように家のまわりを歩きます。
【庭で育てているメダカ】
昔からあったという庭の井戸は、今も水をまく時に使用中です。
「野菜や木の成長もほとんど自然に任せています。手をかけたり肥料をあげたりするのは最初だけ。
その土地に合えばちゃんと育つし、合わなかったら枯れていく。そのくらいの加減がちょうど良いですね」
移住を考えている方にアドバイスはありますか
「『住めば都』ですから、アドバイスは、ないです!」ときっぱり言う明夫さん。
「とにかく行ってみれば、出会いもあるし、いろいろな知恵が湧いてきます。
海外移住だと心構えが必要かもしれませんが、言葉も通じ合う日本なら、どこに行ってもなんとかなりますよ」
現在78歳の明夫さんは、戦後の都内で育ちました。ただ、生まれは愛媛県の宇和島だったそうです。
そこは父母のふるさとで、戦時中の疎開先でもありました。
就職してからも、転勤などでいろいろな地域に住んだ経験があります。
敦子さんは岐阜県の出身。鎌ヶ谷市や南房総は、縁もゆかりもない地域でしたが、自分たちの足でしっかりと立ち、暮らしてきました。
そんなお二人のアドバイスは心強く感じられます。
インタビューを終えて
道の駅や海がある大通りから、細い道に少し入っていくと「こんなにも緑や田畑が広がっているのか」と驚きました。それでも海側だからか、なんとなく南国を感じる風景です。
話を聞く中で「都会の喧騒から離れて、たくさんの人がこの家で過ごし、癒されてきたのだろうな」と、情景が目に浮かぶようでした。
筆者も、上田さん家の自然のオアシスで、心が軽くなりました。
(※本記事は、2025年6月に取材・撮影を行った際の情報をもとにしています)