Home > 南房総大好き人 > 鴨川市在住 山下佳世子様 二拠点生活

棚田のある鴨川で見つけた、これからの暮らし

【山下佳世子さん】

<ご紹介するのはこんな方>

山下佳世子さん(60代)
鴨川市二子地区・千葉市中央区 二拠点生活
家族構成 夫婦2人住まい

鴨川市の二子は、棚田が点在する山あいの静かな地域です。棚田と海が同時に見られる美しい場所で、別荘として使われている家も多くあります。
山下佳世子さんは、そんな二子と、千葉市の工業地帯近くにある自宅を行き来しながら、二拠点生活を送っています。
どのような思いから、この地での暮らしを選んだのでしょうか。お話を伺いました。

人生にひと区切りがついたとき

佳世子さんは岩手県の海辺の街で生まれ育ちました。学業のため都会に出て、そのまま楽器メーカーに就職し、ピアノ教師として働いていました。結婚を機に退職してからは、子育てをしながら千葉市内の自宅でピアノ教室を開き、40年にわたり指導を続けています。
 
「千葉市で忙しく暮らすなかでも、『もっと自然の近くで暮らしたい』という思いは、ずっと心の中にありました。岩手の海辺で育った原風景が、どこかに残っていたのかもしれません。千葉の家は工業地帯に近い場所にあって、やはり空気がいいとは言えないんですね。テーブルをさっと払うと手に黒いすすがつくこともありました。私は植物が好きなんです。でも葉にもすすがつくような環境ではそれも…」
 
自然に恵まれた場所で暮らし、土に触れ、植物を育てたいという思いは募るばかりでした。
50代になり、長男は就職して独立し、次男が夫の自営の仕事を継ぎ、子どもたちは自立しました。これからの自分の人生をどう過ごすか…そんなことを真剣に考えはじめたときに起きたのが、2011年の東日本大震災です。この震災で佳世子さんは母親を亡くしました。
 
「人生はいつか本当に終わってしまう。やはり自分が望む生活をしたい」
 
悲しみの中にありながらも、佳世子さんはそう決心し、動きはじめます。

【リビングにて】

【リビングにて】

2年かけて出会った棚田が見える家

まず、環境の良い場所にもうひとつ生活の拠点を作ることにしました。
最初に佳世子さんが漠然と考えたのは、大多喜(千葉県大多喜町)あたり。ハーブが好きなので大多喜有用植物苑(OTAKI HERB GARDEN)によく足を運んでいたからです。
 
佳世子さんを鴨川に引き寄せたのは友人のKさん。佳世子さんと同じく、自然を愛するKさんは一足先に鴨川に生活の拠点を作り、鴨川の魅力をたっぷり伝えてくれました。佳世子さん自身も海の近くで育っています。それに夫の趣味は釣り。やはり、海に近いところにしようということで、鴨川にある魚見塚一戦場公園の近くに庭付きの戸建てを借りて、週末ごとに過ごすようになりました。
 
週末の田舎暮らしを楽しみながら、将来の本格的な移住に向けて、夫ともども、館山、勝浦、九十九里…と房総半島の海側の街で物件を探して回りました。鴨川市内の不動産屋さんも3件訪問して「よい物件あったら、紹介してください」とお願いしましたが、どこからも返事はなし。
 
条件は、夫婦で住むことを前提に、小さくてもよく、家庭菜園ができるくらいの庭があれば十分で、さほど厳しいものではなかったのですが…。
 
佳世子さんたちはインターネットでも物件を探すことにして、良さそうなところを見つけては足を運びました。そうして10件ほど見て回って出会ったのが、今の家です。築年数はそれなりに経っていましたが、リフォームが済んでいて、すぐに住めるところが気に入りました。物件を探すなかで次第に分かってきたのは「価格が安いところは、まず間違いなくリフォームが必要」ということでした。棚田が見える、静かな環境にも惹かれました。
 
この家での暮らしに合わせて、リビングには薪ストーブを取り付けました。傾斜地を活かした造りで、わずかな階段で2階に上がれる、平屋に近い構造になっています。吹き抜けのあるリビングには薪ストーブの暖かさが行き渡り、家全体がやさしく暖まります。庭には可愛らしい三角屋根の物置小屋も建てました。釣りの道具や家庭菜園の道具が整然と並んでいます。

【傾斜を活かした住まい】

【傾斜を活かした住まい】

【リビングに設置された薪ストーブ】

【リビングに設置された薪ストーブ】

【棚田の向こうに海が望めます】

【棚田の向こうに海が望めます】

鴨川の暮らしがくれるもの

鴨川での生活についてお聞きしました。
 
「鳥のさえずりが聞こえるのも楽しいし、春夏秋冬の景色が楽しめます。夫婦とも体調がよくなりました。愛犬のクウちゃんと散歩するのも気持ちいいです。私は以前から梅干しを作るのが好きなのですが、ここでは思いっきり天日干しできるのが嬉しいですね。今のところ二拠点生活なので、本格的な菜園は作れませんが、できる範囲で野菜も育てています。
 
鴨川は魚も野菜も、食べ物がおいしいですね。それに人との出会いが多くなって、人間関係が広がりました。地元の方ともですし、移住者同士でも、です。都市ではあれだけ人がたくさんいるのに、意外に人との付き合いってありませんでした。
わくわく広場(直売所)で野菜を選んでいると『それはこうやって食べるとおいしい』とか、見知らぬ人から話しかけられたりも(笑)。それに『これ、もっていけ!』の文化。魚、野菜、お花…いろいろなものをいただいています。手作りの寒天はテングサから作ったもので、本当においしかったです」

【庭の菜園。まだまだこれから広がります】

【庭の菜園。まだまだこれから広がります】

【三角屋根の物置】

【三角屋根の物置】

手放して作り直した、暮らしの行き先

ベテランのピアノ教師の佳世子さんですが、千葉市の自宅で使っていたグランドピアノは置いてきました。鴨川の家にあるのはキーボードだけ。「教えるのは卒業、誘われたら弾いて楽しむことにしています」と笑顔を見せます。いずれ二拠点生活を終え、鴨川で定住することに決めています。定住したら、菜園で野菜を育てて無人販売所に置いてみたいとのこと。都市では見たことのない、道端の無人販売所は佳世子さんの目にはとても新鮮に映ったそうです。鴨川に導いてくれた友人のKさんとマコモを育てる計画もあります。
 
移住したい方や、二拠点生活をしてみたい方に向けて一言いただきました。
 
「来たらなんとかなる(笑)。まずは賃貸で住まいを探して、ゆっくり探すのがいいと思います。確かに利便性の面で不安もあるかもしれませんが、私は、なにか問題が起きたら、そのときに考えよう、と思っています」

【明かりがとれる天窓とシーリングファン】

【明かりがとれる天窓とシーリングファン】

インタビューを終えて

佳世子さんのお話を聞いて感じたのは、「潔い人だな」ということです。それは、生きて来し方の役割を精一杯、やりきった人だけが持てる潔さだと思います。グランドピアノを置いてきた…というところも、そんな潔さの表れではないでしょうか。
それまで築き上げたものの、あるものは手放し、あるものは今後の人生に活かして、自分の望むライフスタイルに舵をきった佳世子さん。共感する方も多いはずです。佳世子さんとKさんのマコモが直売所や無人販売所に並ぶ日を待っています。
 
(※本記事は、2026年3月に取材・撮影を行った際の情報をもとにしています)

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