”断る理由がなかった”予定外の館山で見つけた理想の暮らし

【西山文雄さん 京子さん】
<ご紹介するのはこんな方>
西山文雄さん(74歳) 京子さん(72歳)
館山市在住
家族構成 2人暮らし
以前の居住地 千葉県木更津市
移住スタイル 定住
木更津駅に近い便利な場所に暮らしていた西山さんは、ゆったりとしたところで静かに暮らしたいと考え、定年退職を機に70歳で館山市に移住しました。当初は、木更津市内で借りていた畑の近くで物件を探していましたが、最終的に予定外の館山に移住することに。その理由は何だったのか、西山さんに話をうかがいました。
パーフェクトな物件
木更津市内で10軒以上の物件を見て回っていたとき、230坪ほどの良い物件に出会い、購入を考えました。ところが、不動産関係の仕事をしている娘婿と一緒に見に行くと、駐車場が狭く、通りから何度も切り返さないと入れないことを指摘され、購入を見送ります。
一度だけ、館山の神余(かなまり)にある別荘地の物件を見に来たことがありました。土地が広く、土手の庭にフキノトウが芽吹き、ミカンや桜の木があるきれいな場所でしたが、当時は横浜勤務だったため、通勤時間がかかりすぎることから諦めました。
あるとき京子さんの知人から「神余にいい物件があるから紹介したい」と電話がありました。しかし、木更津よりさらに南にある館山では、娘家族が遊びに来るのが大変になるため、最初は断っていたそうです。それを聞いた西山さんが「見もしないで断るのは失礼だから、一度見に行ってから断ればいいのでは」と提案し、断る前提で見に行くことにしました。
実際に訪れてみると、350坪ほどの土地に、母屋と納屋、趣味の工作場、屋根付きのガレージまでありました。ちょうど定年退職が急に決まったことも重なり、「断る理由がなくて即決しちゃった」と西山さんは笑います。

【畑から眺めると、納屋の奥に母屋がある】
木更津で借りていた畑には水路がなく、いつも車で30分ほどかけて水を運んでいたため、京子さんは「家の隣に畑がある場所」を切望していました。
「ここには畑も井戸もあって、ビニールハウスまでありました。栗も柑橘類も好きだから植えたいと思っていたら、栗も八朔も柿も全部そろっていて、断る理由がなかった。いろいろな物件を見ていると、安い中古物件はどこか腐っていたりするけれど、ここはそれもありませんでした」と、京子さんにとっても“パーフェクトな物件”だったのです。
遊びに来たくなる、理想の場所
コスモスやバラの花が風に揺れながら迎え入れてくれる西山さん宅は、6LDKの2階建て。日当たりも風通しも良く、家の窓から庭や畑の様子がうかがえます。庭にはパラソルとテーブルセットが置かれ、気持ちよくティータイムを過ごせそう。天気の良い日は、キッチンから続くウッドデッキでご飯を食べたり、遊びに来た人たちとBBQを楽しんだりと、ウッドデッキが社交の場になっています。

【広々とした西山さんの個室】
2階にもミニキッチンやシャワールームがあり、お客さん用のベッドルームも完備。そのため、木更津や都内から家族や友だちがよく泊まりに来るそうです。京子さんと西山さん、それぞれに個室があり、屋根裏部屋は小学生のお孫さんたちのお気に入りの場所。当初は「遠いから遊びに行けない」と言っていた娘さんたちも、今では友だちまで連れて、喜んで泊まりに来ているのだとか。
西山さん宅の居心地の良さは、家族や友だちだけでなく地域の人たちにも知られています。2階にあるリビングは「集中できる」と評判で、近所の子どもが朝から受験勉強をして一日過ごしたり、放課後にお母さんが迎えに来るまでここで過ごしたりしていたそうです。

【近所の子どもが勉強に使うこともある日当たりの良いリビング】
家庭菜園から、本格的な農家へ
家の裏手には整備された農地が広がり、モロヘイヤ、空心菜、大豆などが植えられています。その奥には、大きな栗の木が堂々と枝を広げています。あまり作られていない野菜を試しながら、苗を育て、季節の野菜を栽培。月に一度の「ふれあい神余の里マルシェ」や、JAにも出荷しています。木更津では家庭菜園規模でしたが、館山では規模が一気に拡大。さらに、近所にも畑を借りています。

【手入れの行き届いた畑】
「休耕地がたくさんあるので、農業や自給自足的な暮らしをしたい人にはお勧めです」と、西山さん。
敷地には、ビワやモモ、サクランボ、リンゴやナシなどが植わっています。ハウスでは、野菜に加えてビワやシャインマスカットもすくすくと成長中。木陰エリアでは原木でシイタケを育て、パーゴラにはキウイとヘチマがつるを伸ばしています。春はフキノトウ、秋にはミョウガの恵みがたっぷりあります。
元牛小屋は農具置き場として使い、その前に置いたテーブルで畑を眺めながら休憩します。もうひとつの、もともと趣味のために使っていたであろう小屋は、出荷作業用のスペースとして活用しています。出荷のコンセプトは、市場調査をしてスーパーよりも安い価格で販売すること。品質とコストのバランスを大切にするため、全て記録に残しています。
地域との交流を楽しむ暮らし
緑に囲まれた里山エリアに建つ西山さん宅は、隣の家との距離感が程良くあるため、プライバシーが十分に保たれています。西山さんにとっては、騒音を気にせずに好きな音楽をかけて過ごせるのが魅力の一つ。毎朝6時半には、音量を気にせずラジオ体操を流し、2人で体操するのが日課です。

【いつものソファーでくつろぐ2人】
「スーパーまでは少し遠いですが、神余は人が温かくていいところです。ここには250年続くかっこ舞や祭りがあり、お互いに助け合って生きてきた地域なので、移住者を受け入れる文化があります」と、西山さんは言います。
移住して4年目ながら、その文化にすっかり溶け込み、現在は移住者受け入れ促進事業の副部長や、区長まで務めています。お菓子作りが好きな京子さんは、月例の区会のたびに焼き菓子を作り、参加した人が持ち帰れるように準備しています。今ではそれを楽しみに参加している人もいるそうです。また、親しく付き合っている方の誕生日にはケーキを焼き、書道を習っていた西山さんがメッセージカードを書き添えて贈るのが恒例になっているのだとか。
「畑をしながらのんびりと暮らしたい」という思い描いていたイメージとは少し違い、農作業に移住相談、会合などに追われる慌ただしい日々を過ごしているお二人。それでも、とても生き生きとした表情で里山暮らしの魅力を話してくれました。
(※本記事は、2025年10月に取材・撮影を行った際の情報をもとにしています)






