Home > 南房総大好き人 > 鴨川市在住 神向寺信二様 二拠点生活

東京も鴨川も好き。いきあたりばったり夫婦の2拠点生活

【神向寺夫妻】

<ご紹介するのはこんな方>
鴨川市・東京都渋谷区 二拠点生活
神向寺(じんこうじ)信二さん(73歳)・恵子さん(69歳)
家族構成 夫婦2人

美しい田園風景が広がる中を車で走り、ゆるい坂道を登ると、広々としたウッドデッキのある平屋が姿を現しました。敷地の奥にある倉庫と外キッチンの間は、ブドウ棚でつながっています。流し台の横には手作りの竈があり、小屋の中をのぞくと土壁のワンルームには薪ストーブが据えられていました。7月に訪れたこの日、ブドウは小さな実を付け、外キッチン前のグリーンカーテンには、ビールの原料であるホップがたくさん実っていました。敷地内を見渡すだけで、田舎暮らしを堪能している様子がイメージできる神向寺さん夫妻の2拠点生活について、話をうかがいました。

「田舎に拠点が欲しかった」

信二さんはご両親の住む茨城県鹿島市に通って田舎暮らしを楽しんでいましたが、ご両親が亡くなり、田舎の拠点を探していました。鴨川市を訪れたことはありませんでしたが、棚田の田んぼを一区画借り受けて、田植えから脱穀までの作業を自ら行う「棚田オーナー制度」の存在を知り、参加することにしました。

川代(かわしろ)という地区にあった田んぼは、水をたたえた田園風景の中にあり、その向こうには清澄山系が連なっていました。その景色に一目ぼれした神向寺さん夫妻は、
「古民家付きの土地があればいいな」と思い、通り沿いの不動産屋に立ち寄ります。その不動産屋から返ってきたのは「いい古民家はありませんよ」という答えでした。

当時、信二さんは60歳になる少し前。10年も土地を探し続けているという70代の夫婦と出会い、気持ちが焦っていました。
「だらだら探しても仕方がない。古民家と土地の両方気に入る場所はないだろう」と考え、早い段階で紹介してもらった更地に決めます。
こうして2012年、300坪の土地を手に入れました。

自ら設計して建てたオフグリッドハウス

【オフグリッドハウスの外観】

【オフグリッドハウスの外観】

実は、建築設計を職業にしてきた信二さん。これまでに数々の建物を設計してきましたが、自分で家を建てた経験はありません。そこで「自分で建てられそうな小屋」を設計し、週末ごとに小屋づくりを始めました。テントで寝泊まりしながら4~5年かけて完成させたのは、屋根にソーラーパネルを乗せ、薪ストーブと竈で調理し、コンポストトイレを備えたオフグリッドハウスです。

土地を購入した当初、そこは「死んだ土の、無個性な土地だった」と言う場所に、手づくりの個性的なオフグリッドハウスが建ちました。庭には米ぬかやもみ殻を入れて、ライ麦や野菜を育てはじめます。すると、農具や大工道具などを収納するスペースや、雨が当たらない屋外スペースが欲しくなり、2019年に車庫づくりをスタート。もちろん設計は信二さん。梁の間にケーブルを張る張弦梁(ちょうげんばり)を取り入れた構造になっています。その理由は「やってみたかったから」。将来的にはここに、サウナや水風呂もつくるそうです。

エネルギーロスがない省エネハウスを設計

セミリタイア後は、週休3日で鴨川市と東京との2拠点生活を楽しんでいた信二さん。2019年に完全リタイアして再び独立すると、増えた休日を鴨川で過ごしたいと思うようになりました。そうすると、小さな小屋だと落ち着かない。アウトドアキッチンで料理をしていた恵子さんからも「寒いし虫が出るし、ちゃんとした家を建ててほしい」と頼まれます。

そこで信二さんは、断熱、蓄熱、調湿を考えたエネルギー効率の良い家を設計。
「自分が良いと思って設計したものをプロに建ててもらい、暮らしながら良いところや悪いところを検証していきたい」と、貯金を全部はたいて納得のいく家を建てました。「壁を塗るのは、お金ができたとき」と決め、2024年2月に引き渡された家の壁は、土壁の下地のまま。仕上げの漆喰を塗ったのは、2025年4月でした。

【仕上げの漆喰を塗る前の下地の状態】

【仕上げの漆喰を塗る前の下地の状態】

一歩入ると、洞窟に入ったように感じる7月の家の温度は、だいたい27度。熱交換型の換気システムを取り入れ、エネルギーロスを抑えた省エネハウスになっています。
仕切りがない平屋の家ですが、寝室や冷蔵庫、パントリーなどは目につきにくいように工夫。
また、太陽光を利用したオール電化でありながら、炭や薪を使った調理も楽しめるように、ウッドデッキの一角に七輪や火消し壺などを収納できるベンチを設置しました。

【パントリーが見えない設計のキッチン】

【パントリーが見えない設計のキッチン】

「ぼくらのモットーはいきあたりばったり」

鴨川での過ごし方を聞いてみると、第一声は「草刈り」でした。ほかにも、自分で育てたブルーベリーやプラムを使ったジャム作りなどをしているそうです。そして何より「知り合いの輪が広がっていくのが楽しい」と言います。

【漆喰が塗られた壁のリビングで】

【漆喰が塗られた壁のリビングで】

「東京では出会いが少ない。仕事を辞めると特に少なくなるけれど、鴨川では年齢や性別など、バックグラウンドがバラバラの人たちと知り合えるのがおもしろい」

また、自宅や知人宅のDIYをして過ごすことが多いそうです。毎週金曜日に来て、日曜日か月曜日に帰るのが日常ですが、ときどき1週間くらい滞在することも。
「東京に比べて、新鮮な魚が安く手に入る」と、うれしそうに話します。

【オリジナルソファーで寛ぎながら田園風景を眺める】

【オリジナルソファーで寛ぎながら田園風景を眺める】

信二さんは、パンやケーキを焼く趣味もあります。その出来栄えがプロ並みで「店に置いてほしい」と声を掛けられ、カフェでケーキを焼いて販売しているそうです。

2拠点生活をかなり堪能しているように見えるご夫妻ですが、今後移住は考えていないのかという問いに信二さんはこう答えます。
「どうなるかわからない。いつ何が起こるか、いつまで運転できるのか分からない。でも東京も好きなんです。暮らしていくうちに、自然にどちらか決まるそのときまで、できるうちは両方を楽しみたい」

いきあたりばったりのスタイルで、まだまだ2拠点生活を楽しむ様子でした。

(※本記事は、2025年7月に取材・撮影を行った際の情報をもとにしています)

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