人が集まる空間にしたい! 夢のマイホームを自分で設計

【小林道子さん】
<ご紹介するのはこんな方>
小林道子さん(70代)
南房総市富山地区在住
元保育士
家族構成 夫婦2人住まい
以前の居住地 千葉県松戸市
移住スタイル 定住(Uターン)
富山地区に住む道子さんは現在74歳。隣町の丸山地区出身で、15年前にUターンしてきました。
移住する前は、都内や千葉県松戸市で長年保育士として働き、移住後は学童保育に勤務。
2024年に退職され、現在は三味線や絵本の読み聞かせなどの表現活動を楽しまれています。
家を新築する時の設計は、なんと道子さんが担当したそうです。
今の土地に決めた理由や設計して気に入っているところなど、実際の暮らしについてお話をうかがいました。
地元の近くに家を建て、母が元気なうちに一緒に過ごしたい
南房総市に移住する前は、松戸市で中古住宅を購入し生活していた道子さん。実は今もその家は残っていて、松戸に用事がある時などは利用しています。
現在は富山地区に定住していますが、この土地に家を建てた後もしばらくは松戸に住み続け、実際に移り住んだのは10年ほど経ってからだそうです。
なぜ松戸に家も職場もあるのに、新たに家を建てたのでしょうか。
「自然豊かな南房総にゆくゆくは戻りたいと思っていました。私の母は生前、隣町の丸山地区に住み続け、父は56歳という若さで亡くなったので、いつかはまた母と一緒に過ごしたいと考えていたんです。
夫は『新たに家を建てるのは定年後でもいいのでは』と言いましたが、それでは高齢になる母と過ごす時間がないかもしれない」と道子さんは感じました。
母がすすめてくれた不動産のチラシに現在の土地が掲載されていて、他にも4か所ほど見てまわりましたが、ここに決めました。
他の所は駅近で便利な一方、隣家との距離が近いことが気になり、広々とゆったり過ごせそうなこの土地に、道子さんの希望を詰め込んだ家を設計することにしたのです。
【自宅の外観】
自宅から駅やスーパーまでは車で5分ほどの距離。県道に出るとバスも通っています。
初めての設計。人が気軽に遊びに来る家にしたい
この土地は元々段差のある形状だったため、段差の下の部分を駐車場にし、階段を上がって家に入るという造りにしました。多少起伏がある土地だったこともあり、安く購入することができたと言います。
道子さんにとって家の設計は初めてのことでしたが、不安はなかったのでしょうか。
「建築をお願いした工務店には知り合いの宮大工さんがいて、その方をとても信頼していたんです。
『こういう空間にしたい』というイメージを描き、間取りなどを考えて設計していきました。それを宮大工さんに見せて相談し、その方の監修のもと、建築してもらいました」。
「空想が形になっていくので、設計するのがとても楽しかった」と道子さんは話します。
「新築したら、たくさんの人が気軽に遊びに来るような家にしたい」と工夫を凝らしました。
駐車場から上がる階段は、足腰の弱い方が使いやすい高さの段差にして、手すりも設置。
そのおかげで「母が88歳で亡くなるまでの4年間、よくこの家に来て一緒に過ごすことができました」と嬉しそうに語ります。もし定年後にこの家を建てていたら、その願いは叶いませんでした。
実際に住んでみて気に入っているところはありますか
自宅の中でお気に入りの場所を紹介してもらいました。
まずはこだわりが詰まったスタジオホール。一面が鏡張りで、広さはおよそ30畳あるそうです。
【スタジオホール】
ここで三味線の練習をしたり、端唄の会をひらいたりしています。
以前は日本舞踊やフラメンコも踊っていたという道子さん。スタジオを作るなら「全身の動きを確認できるように、一面を鏡張りにしたい!」と思っていました。
フラメンコは「マントン」という大きなショールをまとってダイナミックに踊ることもあるため、天井まで高さが必要です。
そこでスタジオ部分は他の部屋よりも床を低くして、天井までの距離を高くすることにしました。
【ダイニングキッチン 三味線を弾く道子さんの絵は、画家の姉が描いてくれたもの】
そしてダイニングキッチン。こちらは玄関を入ってすぐ目の前に空間が広がっていて、その奥が台所になっています。
「私だけでなく、家に来た人たちが自由にお茶を入れたり、料理ができたりする場所にしたかったんです」。
部屋の仕切りをなるべくつくらず、開放的な空間になるよう工夫しました。
【和室 窓の外のサザンカは11月~2月頃まで咲く】
1階には広い和室もあり、大人数でごはんを食べる時によく使っています。ふすまを閉めると2部屋に分けられるので、お客さんたちが寝泊まりする時には便利です。
多くの人が来ても過ごしやすい空間、そしてとにかく動きやすい動線を道子さんは考えました。
【ひのきのお風呂】
「おすすめの場所はここにもあるのよ」と1階のお風呂場も案内してくれました。憧れのひのき風呂だそうです。
ひのきが傷まないよう、床や腰の高さまでは「鉄平石」という平らな石を埋め込みました。
「四万温泉」へ旅行したときのお風呂場に感動し、自宅も思いきってひのきのお風呂に。
新築の一番風呂は、お母さんと一緒に入ることができました。当時はひのきの香りが家中に広がったと言います。
今も子どもたちが帰省したり、友人が来たりして、にぎやかなひとときを多く過ごしています。
1階のトイレと洗面台は2つずつ設置して、お客さんが寝泊まりする際もスムーズに使えるようにしました。夫婦の寝室がある2階には、トイレとユニットバスが1つずつあり、プライベートな空間を確保できるようになっています。
「ベランダがほしい」という夫の希望で、2階はいくつかの部屋の他に、広い屋上も造りました。
「屋上からは星がきれいに見えるので、流星群の時もじっくりと楽しめるんですよ」。
この日は愛犬が屋上を駆け回っていました。
南房総に移住して良かったことを教えてください
「都内や松戸に住んでいた頃は排気ガスが気になっていました。私が住んでいた時の松戸は雪もよく降り、アイスバーンになって車移動が困難な時もよくあったんです。南房総では思いっきり深呼吸できるし、温暖なのでやっぱり過ごしやすいですね」
そして家を建てた後には、道の駅「 富楽里(ふらり)とみやま」が近くにできました。
道の駅から高速バスも出ているため、「千葉市内や東京、羽田空港へも行きやすくなった」と話します。
「夫は広島県の海側の出身なので、近くに岩井海岸があるのも良いですね。花火大会や海で遊んだ記憶がよみがえります」。
道子さんは子どもの頃から平群地区のお祭りが大好き。道路を練り歩く「担ぎ屋台」を見るたびに、今も涙が溢れてくるそうです。
家を建てるときのアドバイスはありますか
「とにかく地盤が大事です。どういう地質でできているのか。岩か砂か、田んぼだったのかなど、よく確認してください。宮大工の方にも『地盤がしっかりしたところに建てないと後でいろいろな問題が起こる』と言われました」。
そして設計の際には、防犯対策の視点も必要です。
「本当は縁側をつくりたかったけれど、『道路に面しているからやめた方がいい』と言われました。
ほとんど自分の好きなように設計しましたが、防犯や地震など『もしもの時』の対策は専門家に相談するのが一番ですね」。
インタビューを終えて
実は筆者も、居心地の良い道子さんのお宅へ数年前からよく遊びに行っています。
道子さんは「自分が70代になるなんて想像もできなかった。でもあっという間な気もするし、まだまだ気持ちは50代くらい。身体の衰えは感じますが、これからもやりたいことが沢山あるんです」と、今もアクティブに活動されています。
そんな道子さんのすてきなお家に人が集まり、豊かな交流が生まれることを、筆者も心から楽しみにしています。
(※本記事は、2025年2月に取材・撮影を行った際の情報をもとにしています)