君津市と二拠点しながら、館山 市で「猪そば匠」をオープン
【猪そば匠 オーナー 高橋新志氏】
<ご紹介するのはこんな方>
高橋新志さん(50代)
君津市・館山市 二拠点生活
家族構成 独身
横浜で育ち、街づくりやカフェの運営に携わっていた高橋さん。2008年に君津市の土地を購入し、開拓をはじめます。横浜との二拠点生活後、2016年君津市に移住しました。2019年、館山市にも拠点を持ち、2022年「猪そば匠」をオープン。横浜との二拠点から移住、館山市との二拠点へと変化した経緯についてお聞きしました。
日本のウブド?
バリ島のウブドが好きで、よく遊びに行っていたという高橋さんは、「将来ウブドに住めたらいいな」と漠然と思い描いていました。ある日テレビをつけると、ウブドのような景色が目に飛び込んできました。その映像は鴨川市にある大山千枚田で、「こんな景色があるんだ」と思った高橋さんは、アクアラインを通って初めて房総半島を訪れます。
ふだんは三浦や湘南、箱根など、完成された観光地で遊んでいた高橋さんにとって、手つかずの自然が残された房総の景色は衝撃的で、その後何度も足を運び、房総の“沼”へとはまっていきます。
自分の場所を自分でつくってみたいと思った高橋さんは、房総の土地を探し、君津市にある250坪の土地を手に入れました。横浜の自宅から車で1時間、高速のインターから10分の県道沿いにあって、アクセスしやすい場所。南側には田園風景が広がっていて、訪れる度に季節の移り変わりを感じられ、「雨の日はウブドでの通り雨をほうふつとさせる」と高橋さんは言います。
【DIYしたウッドデッキから、田園風景を眺める君津の拠点】
楽園計画は草刈りから
田舎暮らしに付き物なのが、草刈りです。高橋さんの楽園計画も、やはり土地の草刈りからはじまりました。一人で草を刈り、刈った草を運び、焼却作業を黙々とやっていると、いつの間にか日が暮れていたそうです。そこで、草刈り協力隊を結成して仲間を集結し、草刈り作業をしたあとはみんなでBBQというコースを、これまでに幾度となく繰り返してきました。
土間を打ち、コンテナハウスを置いてとりあえずの拠点をつくります。井戸を掘ってもらい、電気を通し、露天風呂をつくり、菜園をつくり、ログハウスを建て、楽園計画は少しずつ進んでいきます。
【君津の拠点にログハウスを建設】
南房総へと導かれた講演会
横浜と君津の二拠点生活を楽しんでいたとき、友だちがある本を勧めてくれました。タイトルは『週末は田舎暮らし—ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記』。著者は、南房総との二拠点生活を送っている馬場未織さんです。2016年、都内で開かれた馬場さんの講演会に行ってみました。「二拠点している人いますか?」の問いに、当然高橋さんは手を挙げます。周りを見渡すと、手を挙げている人たちが想像以上に目に入りました。このとき手を挙げていた人たちと、講演会終了後飲みに行くことに。
南房総に拠点を持っている二拠点居住者たちとつながり、お互いの拠点をお互いに手伝いあうことが増えて、わかったことがあります。2人、3人で一緒に作業をすると、2倍、3倍で仕事が進むのではなく、2乗、3乗で進むと知ったのです。「みんなでやった方がいいじゃん」と、高橋さん。
自然と南房総へと足を運ぶ機会が増え、南房総の人たちとのつながりが広がっていくと、今まで経験を積み上げてきたDIYが仕事へと結びついていきました。単発の仕事もありましたが、長期で請け負う仕事も入ったため、館山市にもう一つの拠点を設けて、君津市との二拠点生活がはじまりました。
房総暮らしのプラスとマイナス
「南房総には観光地としての魅力があるのに、湘南や箱根に比べると未完成で洗練されていない。けど、手つかずのものが多くて、伸びしろの多さを感じました。海のスペックもこっちの方がすごくいいし、山も遊歩道とか整備されていない粗削りな感じに魅力を感じた。発展途上の素朴な魅力は、日本じゃないみたい」
房総の魅力について語る高橋さんにとって、君津と館山の違いはなく「ただの農村風景。そこに魅力を感じる」と言います。
逆に、不都合や暮らしにくさはないか聞いてみると、「いまだに携帯の電波が届かないところが、普通に残っている。メガバンクが無いのも……」と話す高橋さんに、思わず私も大きく頷いてしまいました。移住前はふつうにメガバンク口座をメインバンクとして使っていた者にとって、メガバンクがないという不便さを感じていたのです。
マイナス点はあるものの、暮らしやすさや物価の安さ、野菜のおいしさのポイントはかなり高いようです。また、互助についても語りました。
「経済観念が違いますね。都内はお金が中心で、全てお金で解決する。こっちは同じくらい物々交換やお手伝い的な互助があって、成り立っている」
館山市との二拠点をはじめてから、人とのつながりがどんどん広がっていった高橋さん。そのつながりが、猪そば匠のオープンにもつながりました。
つながりをいかした新たな挑戦
館山市との二拠点生活をスタートし、館山ジビエセンターや狩猟を行う人たちともつながりました。BBQでイノシシの肉を食べたとき、そのおいしさに感動した高橋さん。罠にかかったイノシシの9割は捨てられていると聞いて、「なんとか使って、広めることはできないか」と考えました。その一つが、仲間とともに立ち上げた「南房総バーベキュー協会」で、「日本バーベキュー協会」とともにイノシシの丸焼きイベントも開催しました。空き店舗を自らDIYしてオープンさせた猪そば匠も、人とのつながりから生まれました。
【猪そばを提供する高橋さん】
住む場所が違っても、横浜時代の友だちともつながり続けています。イノシシ肉のBBQをすると、高橋さんがそうだったように友だちもそのおいしさに感動。住宅地から突然現れる崖観音を案内すると、すごい場所なのに土産物屋もなくて、観光地化されていないことにびっくりするのだとか。
「海、山、里山、農村エリアが20分圏内にそろっていて、一日に何か所も回れるのは、南房総の魅力だ」と話す高橋さんは、房総の“沼”にすっかりはまってしまったようです。
インタビューを終えて…
長年暮らした横浜でのつながりと、君津市への移住や館山市との二拠点で得たつながりを結びつけて何を生み出していくのか、今後も楽しみです。ジビエの混ぜそばを食べたい方は、館山駅東口sPARK(スパーク)内にある猪そば匠へどうぞ!
高橋さんのInstagram
https://www.instagram.com/inosoba1713_staff?igsh=eHc4MGczd2xnejdy&utm_source=qr